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最高裁判所第三小法廷 昭和60年(行ツ)83号 判決

大阪市旭区新森二丁目二番一号

上告人

内外興産株式会社

右代表者代表取締役

中山象一

右訴訟代理人弁護士

平正博

大阪市旭区大宮一丁目一番二五号

被上告人

旭税務署長

西村和典

右指定代理人

立花宣男

右当事者間の大阪高等裁判所昭和五七年(行コ)第一六号法人税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和五九年一一月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人平正博の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであって、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤正己 裁判官 木戸口久治 裁判官 安岡満彦 裁判官 長島敦)

(昭和六〇年(行ツ)第八三号 上告人 内外興産株式会社)

上告代理人平正博の上告理由

第一点

一、被上告人の上告人の第二期(昭和四六年五月一日~昭和四七年四月三〇日)及び第三期(昭和四七年五月一日~昭和四八年四月三〇日)の各期の法人税の確定申告に対する更正決定は、次のとおりであり、原審判決もそれを認めた。

第二期 所得金額二八、二五六、八二九円

納付税額一〇、七七〇、九〇〇円

重加算税 二、八七四、九〇〇円

第三期 所得金額二七、一一一、二三〇円

納付税額一〇、三二五、〇〇〇円

重加算税 二、七二一、九〇〇円

二、そして右上告人の所得は、「被上告人の主張によれば、取引にともない発生したいわば附随的なものであり、本来の土地譲渡益とは区別すべきものであることはいうまでもない」としており(昭和五六年五月七日付被上告人準備書面七丁)、原審判決においては、「資産の販売による譲渡益として上告人の第二期の益金に………これを資産の販売による譲渡益として第三期の益金に計上するのが相当であり………」(原判決一四枚目12以下)としている。

ところで、右被上告人の主張にいう「取引にともない発生した附随的なものであり、本来の土地譲渡益とは区別すべきもの」とはどのような性格の収益を想定したものか明確ではないが、原判決にいう「資産の販売による譲渡益」と同一のものであるのかどうか、この資産の販売による譲渡益とは棚卸商品としての土地の販売による譲渡益をいうのか、区別されるべきであるとされる本来の土地譲渡益をいうのか判然としない。このように譲渡益とされる収益の性格を明確にできないのは、そもそも原審の事実認定が採証法則を誤り経験則に反するからにほかならない。

三、上告人は、原審において右被上告人において「取引にともない発生した附随的なものであり」とされる収益について明確な判断を求めているものであるが、原審においては右のとおり何ら明らかにされてはいない。前記のとおり単に「資産の販売による譲渡益」というのみである。

上告人は、契約書上においては確かに土地の買主として記載され、かつ訴外林房治外の地主との間で不動産売買契約の取りまとめに当ってはいるが、上告人において主張しているとおり、訴外明宝広告株式会社(以下明宝広告という)の業務を委託をうけて代行したにすぎないものであり、明宝広告に対して買収した土地を売却すべく契約を締結したものではない。すなわち明宝広告は、昭和四六年八月一〇日までに自ら買収した土地を宅地開発事業用の土地として訴外株式会社大林組(以下大林組という)及び訴外株式会社トーメン(以下トーメンという)に売り渡したが、この売買には、明宝広告が右売却した土地に隣接している林房治外所有の神戸市垂水区下畑町字大丸山、字柏谷所在の土地を大林組及びトーメンが宅地関発に必要な土地として追加買収することが条件として付せられていたものであり、従って明宝広告においては、追加買収をしなければならなくなったところ、明宝広告の実質上の代表者であった訴外立川武衛から明宝広告の大林組及びトーメンとの売買事務を担当していた訴外中山象一に対して、右追加買収業務を明宝広告のため上告人にて代行すべき旨の指示があり、買収資金及びその他の所要資金は必要に応じて明宝広告にて出捐するとの約旨のもとに上告人において右追加買収業務を代行することとしたものである。そして、上告人は昭和四六年八月一〇日付をもって不動産売買契約を締結した土地をも含め、昭和四六年八月から右代行業務の遂行にあたるものとし、それまでに明宝広告にて取りまとめていた土地の売買をも含め八月一〇日付を仲野治外の土地所有者との間で売買契約書を取りかわすと同時に、前記立川武衛の指示するところにより各地主に支払う売買代金等の交付を明宝広告から受けてそれをもって地主等に売買代金の支払いをしたものである。従って、右昭和四六年八月一〇日に明宝広告から交付を受けた金員については、明宝広告と上告人との間には何らの不動産売買契約も存しない。このことは原審における証拠に徴しても明らかな事実である。

更に原審認定のとおり上告人は第二期において昭和四六年八月一〇日以降林房治外の地主に対して不動産売買代金を支払っているのであるが、この支払資金も全て明宝広告から出捐されているところ、明宝広告の出捐に当っては上告人との間に何らの不動産売買契約の締結もないことは原審証拠に徴して明らかである。そして右土地について上告人と明宝広告との間には売買代金がいくらであるかが明らかとなる資料も何ら存しない。上告人と明宝広告との間に存する不動産売買契約書は、甲第八号証の一及び同第八号証の二のみである。この契約書には、売買代金が金六二五、三一七、八六〇円(甲第八号証の二)及び金一三〇、八七九、三四四円(甲第八号証の一)とされているも、売買対象物件は何ら記載されておらず、かつ右売買代金そのものも右契約の締結日付とされる昭和四七年三月一八日(甲第八号証の二)及び昭和四八年一二月七日(甲第八号証の一)若しくはそれ以降に何ら支払われてはいない。従って右不動産売買契約書の存在をもって明宝広告と上告人との間に不動産売買契約が締結されたとすることはできないものである。してみると明宝広告と上告人との間には、何ら不動産売買契約が締結されたものとみる証拠は存しないものといわなければならないし、不動産売買契約の締結もないのに明宝広告から第二期及び第三期に交付された金具が不動産売買代金(資産の譲渡代金)であるとするのは経験則に反するものといわなければならない。

四、そこで、被上告人においては、上告人の第二期・第三期の収益が前記のとおり「取引にともない発生した附随的なものであり」というところ、上告人においては明宝広告が上告人に交付した時点における交付の原因についても明らかにされるよう求めていたものであるが、これについては何らの判断なく、「資産の譲渡益」であるというのみである。

上告人においては、上告人が第二期及び第三期に明宝広告から交付をうけた金員につき、右各期における上告人の収益とされるものではなく、明宝広告から委託をうけた業務の遂行に要する資金として受取ったものである旨主張しているのであるところ、明宝広告からの入金時においては確かに上告人の収入となるものとはいえ、明宝広告に土地を売却したことによる売買代金として入金したものではないから当該年度における地主に支払った残金は明宝広告からの預り金として負債科目に計上されるべきものであって当該年度において収入が支出を上廻ったところで何ら上告人には当該年度における所得とされるべきものはないとしているものである。

五、すなわち上告人が明宝広告から第二期及び第三期に交付をうけた金員の授受の日付は次のとおりである。

1. 昭和四六年 七月二六日 金八、六九〇、〇〇〇円

2. 〃 八月一〇日 金二六二、〇〇〇、〇〇〇円

3. 昭和四六年 八月三〇日 金六、七二〇、〇〇〇円

4. 〃 一一月三〇日 金二五、一〇〇、〇〇〇円

5. 昭和四七年 二月 二日 金二七二、〇三一、六三五円

6. 〃 三月一九日 金五二、四四〇、〇〇〇円

7. 〃 四月一九日 金五、一二〇、〇〇〇円

8. 〃 七月 五日 金一三〇、〇〇〇、〇〇〇円

9. その他 金八七九、三四四円

ところが、右金員の授受時において上告人と明宝広告との間には何らの不動産売買契約もないし、原審において右金員の授受時において上告人と明宝広告との間で不動産(資産)売買契約が締結された旨の認定もない。右明宝広告から上告人に対する金員の交付は、明宝広告が大林組及びトーメンとの合意により宅地開発のため追加買収すべき土地の買収資金及び買収に要する必要資金として行われたものであって、従って右交付時において売買代金として授受されたものと認定することはできないものである。このように、その交付時において売買代金として授受されたものと認定することのできない金員の授受があり、当該年度において上告人の支出を超える残額があるからといって、その残額を当該年度における上告人の収益とすることはできないし、金員の授受時において不動産(資産)の売買代金として確定できないものを不動産の売買代金とするのは、審理不尽若しくは理由不備の違法があるというべきである。

六、更に、明宝広告から上告人への第二期及び第三期における金員の交付は、第二期及び第三期において上告人において地主との間で不動産売買契約を取りまとめ、それによって支払わなければならない売買代金の支払時若しくはそれに近接する時に行われているところ、その交付が地主に対して支払う売買代金等であることを互に認識していたものであり、現に上告人においては大部分明宝広告から交付を受けると同時に、若しくはその直後に林房治外の地主に支払っているものである。又、原審において上告人が明宝広告から交付をうけた金員とされるものの中には、明宝広告が振出し、直接地主に交付された手形も含まれているものであるが、そのような金員を資産の譲渡代金としての授受であるとするのは、経験則にも反するものといわなければならない。

すなわち、大手開発業者において宅地開発事業に供するための用地取得を不動産業者(いわゆるブローカー)に委託する例はきわめて多いのであるが、この場合大手開発業者においては不動産業者に対して土地の「買付証明」を交付し、不動産業者は、これにもとずいて開発用地の買付けを進めるのであり、その買付資金(売買代金及びその他の諸経費)は、全て開発業者が出捐し、不動産業者の買付状況に応じて逐次開発業者から不動産業者に交付される。明宝広告から上告人に対する第二期・第三期における金員の交付もまさにそのような買付資金として実行されたものであり、上告人においては、明宝広告から委託を受けた業務に要する資金として前記のとおり金員の交付をうけたものである。このことは、甲第三号証においても明確である。この甲第三号証は、トーメン及び大林組から明宝広告宛に発行されたものであるが、上告人は、この明宝広告の買付業務を前記のとおり代行したものである。そして甲第四号証の一・二、同第五号証の一乃至五、同第六号証の一乃至三、同第七号証の一・二のとおり、不動産売買契約は、明宝広告と大林組及びトーメンとの間でのみ締結されたにすぎず、明宝広告と上告人との間では甲第八号証の一・二のとおり不動産売買契約書は存するものの、明宝広告と大林組若しくはトーメンとの間の不動産売買契約の締結及びその実行はそれ以前に終了していたものである。かかる取引の実態並びに明宝広告から上告人に対する金員の交付及び上告人から地主等に対する売買代金等の支払の事実からみれば、第二期及び第三期において明宝広告が上告人に交付した金員をもって資産の譲渡による収益とすることはできないものであり、それをもって収益として認定するのは著しい経験則違背というべきである。第二期及び第三期において上告人が明宝広告から交付をうけた金員が各期における上告人の収入であり、その各期における支出がその経費でありその差額が各期の所得であるとされるならば、少くとも金員授受時における授受の原因、すなわち明宝広告からどのような法律上の原因により授受されたものかは最低限明らかにされなければならないと思料する。しかしながら金員の授受時における授受の原因については原審において何らの認定をもしていないものであり、単に第二期・第三期における収入と支出との間に差があり、収入が支出を上廻る額について「資産の譲渡による収益」となるというのみである。

第二点

七、ところで、上告人においては、明宝広告から代行委託をうけた前記開発用地の買付業務の遂行につき、別紙土地売買一覧表及び支払手数料経費一覧表記載のとおり前記明宝広告から第二期及び第三期に交付をうけた金員をもってそれぞれ支払ったものである。これらの支払は、明宝広告からの代行業務にもとづく支払いであり、従って、明宝広告との売買契約の締結もなく交付をうけ得たものであるところ、各支払いの相手方に対する支払いの時期は、上告人に委されていたものである。よって、上告人においては明宝広告から交付をうけた金員をもって適宜各支払先に支払ったものであるところ、各支払先において支払いの反対給付をしないときは上告人においても反対給付の履行を待って支払うこととしなければならない。というのは、各支払先における反対給付の履行なしに支払いを済ませると反対給付の履行が覚束かないからである。そうすると第二期及び第三期における代行業務の遂行による債務であっても現実の支払時は各期をずれ込むという事態も生じてくる。上告人においては、明宝広告から委託を受けた買付業務以外に何らの不動産取引をも行っていないものであり、前記各支払先に対する各支払いは全て大林組・トーメンから明宝広告が買付委託され、それを上告人にて明宝広告に代って行ったことにともなうものである。確かにその領収書上においては、別途の原因であるかの如き書載もあるが、その原因はまさにその受領者側にある。すなわち上告人が明宝広告の代行業務を遂行するに際しては宅地建物取引業の事業免許を有しない業者(ブローカー)を介入させなければならなかったところ、かかるブローカーにおいては、上告人が経費なり手数料を支払うもそれに応じた領収書を発行せず、かつ各地主においても不動産譲渡税が課税されることを恐れて授受の原因をなす費目を変更した領収書を発行したり又は極端な場合においては上告人から支払いをうけるも領収書さえ発行しない例もある。しかしながら上告人においてそうしたことも甘受しなければ明宝広告の代行業務を遂行し得なかったのであり、又明宝広告においても同社が認める買収資金枠の範囲内であれば、上告人において支払った金員についての明細までは問わなかったのである。

八、これらのことは、甲第九号証の二の一(特約条項)、同号証の五の一、同号証の一二の一に添付する委託契約書、同第一九号証同第二〇号証の一、同第三一号証の一及び上告人代表者本人の供託、甲第三六号証により十分に看取しうるところであるが、原審においては第二期・第三期後の支払いであるとして、或いは、上告人において負担すべきものでないとして第二期・第三期において経費として認めなかったのである。上告人が前記のとおりの各支払いをしていることは、甲号証によっても明らかであり、殊に支払手数料経費一覧表記載の各金員は、その支払費目は別にして領収書も存するものであり、上告人が明宝広告から第二期・第三期に交付をうけた金員から支払われていることを否定する何らの証拠もない。更に上告人においては、第三期以降において土地の買収業務をしておらず、それにともなう新たな債務を何ら負担してはいないところ、右支払いは、全て第二期・第三期に明宝広告から交付をうけた金員をもって支払うべき債務の支払として行ったものである。訴外株式会社大誠は、昭和四八年三月以降に設立した会社ではあり、同社は訴外中山逸夫が設立した会社であるとはいえ、昭和四六年八月以降中山逸夫が個人として林房治外との土地売買の取りまとめを行っており、その経費・手数料は上告人において負担しなければならないところ、株式会社大誠を設立し同社名儀にて受領したことにより、同社から領収書が発行されたのである。然して上告人においては明宝広告の代行業務以外に中山逸夫又は株式会社大誠に金員を支払わなければならない原因は何らなく、原審においても「上告人が明宝広告から依頼された業務の一部を株式会社大誠に下請させ、これに対し右下請業務遂行のための資金として昭和四八年六月二一日一〇〇万円、同年一〇月一三日二二〇万円、同年同月二二日三三〇万円をそれぞれ交付したことが認められ………」としているのである。しかし原審は、この「支払金が係争年度の前記各収益に対応する費用として支出されたことも、また 各金員支払義務が係争年度中に確定したことも認めるに足りない」としているのであるが、それでは、右支払いがどのような支払いであるというのであろうか。又、原審は上告人が訴外足立万次郎に支払った金四、〇〇〇、〇〇〇円につき、上告人が支払ったものではないというのであるが、それでは誰が支払ったというのであろうか。もし明宝広告が支払ったというのであれば、明宝広告の確定申告の内容が問題とされなければならないこととなる。このことは、上告人が訴外森本義行外一名及び林栄司に昭和四六年八月一〇日に支払った金一、〇七〇、〇〇〇円及び金二、〇三〇、〇〇〇円についても同様である。これについて原審は、右支払いをしたのは明宝広告であるとしているが、上告人が明宝広告から交付をうけた金員による支払いが明宝広告の支払いとなるというのであればそのとおりであるが、上告人が昭和四六年八月一〇日に明宝広告から交付をうけた金員以外に別途明宝広告から右森本義行外一名及び林栄司にそれぞれ支払われたというのであれば間違いであり、そのような明宝広告による支払いを証する証拠は存しないものといわなければならない。

その他の上告人の前記支払いについても上告人の第二期・第三期による債務の支払いであることを否定するのは、全て判断を誤ったものであるというべきである。

本件は明宝広告から第二期・第三期に交付された金員の性格及びその金員の流れが問題とされる事案であるから当然に明宝広告の決算書の内容も問題とされなければならないのであるが、それについては被上告人から何らの提出なく、原審においては明宝広告の決算処理との整合性を無視して上告人の収益の認定をしたものであるところ、審理不尽の甚だしい違法あるものといわなければならない。

土地売買一覧表 No.1

〈省略〉

No.2

〈省略〉

支払手数料、経費一覧表

〈省略〉

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